タタミの上を、下駄を履いて歩く:22

歯科医師・山田忠生

 

私も歯科医師になったばかりの頃、つまり50年以上前のことになるが、患者からの質問は苦手だった。違った意味で、”聴く耳”をもっていなかったのだろう。忙しいからとか、説明をする時間がとれないということではない。うまく答えられなかったらどうしょうかとか、知らないことだったらどう返答すればいいのだろうかと、正直ドキドキするものだ。

今にして思えば恥ずかしいことだが、知らないことばかりという状況だった。診療が終わり、帰宅してから何度、大学時代の教科書を開いたことだろう。そして、そこに記載されているかなりの文章が明確に理解できるのだ。大学時代はまったく右から左に通り抜けていた。何度も言っているが、講義は講義、臨床は臨床というばかばかしいほどの別次元として教えるという教育の弊害があった。今ではどうなっているのかは、知らないが…。

折に触れて語っていることがあった。あえて、誤解を恐れず話している。それは、こういうことだ。

「知りません。」、「わかりません。」、「できません。」、「ダメです。」が、患者に話せて一人前の歯医者ではないかということだ。

 

 

 

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